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平成28年度:随時監査結果(銀鮭養殖モデル事業補助金)
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監査の種類
地方自治法第199条第5項の規定による随時監査(補助金等の執行について)
監査の期間
平成28年9月7日から平成29年2月23日まで
監査委員の氏名
渡部直樹
猪股文彦
監査の目的
市が交付する補助金、負担金及び交付金(以下、「補助金等」という)は、公益上必要と認められる特定の事業や活動を支援するために支給されるものであり、限られた財源を公平かつ効果的に活用する手段でなくてはならない。
そのためには、補助金等が担う公益上の役割やその目的が妥当であるか、また充分な効果が得られているか等について検証し、適宜見直しを行う必要がある。
そこで、補助金等の妥当性を判断するため、事務手続のみに止まらず、事業終了後の成果確認や検証等が適正になされているかを重点的に監査し、より効果的な補助金等の執行に資することを目的とした。
監査の対象
平成23年度から平成25年度に市が交付した次の補助金及び当該補助金に関係する事業についての出納その他の事務
補助金名称
佐渡市銀鮭養殖モデル事業補助金
所管課
農林水産課
監査の着眼点
- 補助金の交付の目的が明示され、公益上の必要性が認められるか
- 補助金の交付事務は法令等に基づき適正に行われているか
- 補助事業の成果確認は適正に行われているか
- 補助事業の効果を検証し、適切な改善が行われているか
監査の方法
事前に所管課へ関係資料の提出を求め書類調査を行った。
監査は、書類調査を基に所管課職員からの説明聴取を行うとともに、現状を確認するため現地調査を行った。
補助対象事業及び補助金の概要
佐渡市銀鮭養殖モデル事業(以下、「当該事業」という)は、佐渡銀鮭養殖生産における漁業の成功事例を作るとともに、多様な販路と高い養殖技術・加工技術を持つ民間と連携することで、「生産・加工・販売」の6次産業化を推進し、持続的な水産業の活性化と担い手の育成、雇用の確保を目的とするもので、平成23年10月に市の主導により佐渡銀鮭養殖推進協議会(以下、「協議会」という)を立上げ、5か年計画で取り組んだ事業である。
協議会の構成員は、みやぎ海洋飼料株式会社(以下、「みやぎ海洋飼料」という)、佐渡漁業協同組合及び水津漁業協同組合である。
みやぎ海洋飼料は、宮城県石巻市を拠点に、飼料及び肥料の製造販売や、水産物の加工及び販売並びに輸出入等を営むことを目的とした法人である。平成23年10月に佐渡支店を開設し、みやぎ海洋飼料の取締役が支店長に就任するとともに、協議会の会長となった。
支店長は、佐渡市出身であり、石巻市において銀鮭養殖及び加工販売を実施していた株式会社丸東水産の社長であったが、同社は、東日本大震災において壊滅的な被害を受け廃業した。
市は、当該事業を推進するため、新潟県の補助事業に上乗せ補助できる養殖施設等整備事業のほか、市単独補助事業の養殖担い手対策事業及び種苗生産用施設改修整備事業を事業種目とする佐渡市銀鮭養殖モデル事業補助金交付要綱を新たに整備した。なお、事業ごとの詳細は次表のとおりである。
事業種目 | 事業内容・補助対象経費 | 補助率 | 補助限度額 |
---|---|---|---|
養殖施設等整備事業 | 海面養殖用生けすの整備 | 補助対象経費の25%以内 | 1年につき500万円 |
養殖担い手対策事業 | 養殖施設等整備事業により整備した養殖用生けすに係る労務 | 補助対象経費の50%以内 | 1年につき150万円 |
種苗生産用施設改修整備事業 | 種苗生産活動に必要な機械・施設等改修整備 | 補助対象経費の30%以内 | 1年につき600万円 |
種目 | 支援内容 | 補助率 | 事業費範囲 |
---|---|---|---|
水産振興促進 | 漁業近代化施設等整備(効率的な漁業活動を行うために必要な機械・施設等の整備) | 補助対象経費の10分の5以内 | 1,000万円〜2,000万円 |
協議会はこの補助制度を利用し、総額12,377,000円の補助金の交付を申請し、市は次表のとおり交付している。
事業名称 | 対象経費(概要) | 補助金交付額 | 実施年度 |
---|---|---|---|
養殖施設等整備事業 | 養殖生けす2基 水揚用生けす1基 生けす設置一式 方塊ブロック製作据え付け一式 |
7,500千円 (県5,000、市2,500) |
平成23年 |
養殖担い手対策事業 | 労務費(平成23年11月〜平成24年3月) | 376千円 | 平成23年 |
労務費(平成24年4月〜平成25年3月) | 1,052千円 | 平成24年 | |
労務費(平成25年4月〜平成25年9月) | 794千円 | 平成25年 | |
種苗生産用施設改修整備事業 | 井戸掘削一式 井戸水冷却機2台・井戸ポンプ他 |
2,655千円 | 平成24年 |
また、市は、この補助金のほか協議会に対して銀鮭養殖場として佐渡市栽培漁業センター(以下、「センター」という)の修繕を行い、その経費14,175,000円を平成24年1月に支出し、無償で使用させていた。更に、平成25年4月には水産振興推進負担金1,900,000円を協議会に支出している。
協議会は、平成24年に130トン、平成25年に240トンの水揚げを計画していたが、平成24年6月の初水揚げは冬季波浪と爆弾低気圧の影響による生けす損傷で40トン、翌平成25年6月には海水温上昇等の影響を受け20トンの水揚げとなり、この年を最後に養殖事業を事実上中止している。
平成23年12月28日に提出された補助金交付申請書の添付書類による年次計画及び所管課提出資料による水揚げ量の実績は次表のとおりである。
実施期間 | 水揚げ量 | |
---|---|---|
計画 | 実績 | |
平成23年11月〜平成24年9月 | 130トン | 40トン |
平成24年10月〜平成25年9月 | 240トン | 20トン |
平成25年10月〜平成26年9月 | 390トン | - |
平成26年10月〜平成27年9月 | 540トン | - |
平成27年10月〜平成28年9月 | 540トン | - |
監査の結果及び指摘事項
監査の結果、補助金交付に係る事務について、一部に不適切な事務処理や改善を要する事例が見受けられた。監査の指摘事項は次のとおりである。
なお、軽微な事項については、口頭により所管課へ改善を要望した。
1 補助対象者の選定
補助対象者の選定については、事業の趣旨を広く周知し公募で選定すべきところ、公募も行わず市主導で協議会を設立し、補助対象者に選定した。また、協議会の会長は前市長の大学の後輩であり、当該事業の推進について懇願され、事業実施の中心的な役割を担った。このことは、補助事業としての公平性に欠けている。
2 養殖施設等整備事業
- 協議会は、新潟県へ事業認定前着工届を提出し、その後速やかに市へ補助金交付申請をすべきところ、事業竣工後に申請書を提出していた。しかしながら、市は、補助金交付申請の手続きが不適正であったにもかかわらず、補助金を交付していた。
- 協議会は、補助金交付決定通知において記載された事業対象期間である平成23年11月14日以降に取得したものを補助対象経費として申請すべきところ、事業対象期間前に購入した資材である網及びフロートを補助対象経費として申請を行っていた。また、市は、当該申請金額を補助金として交付していた。補助対象経費の精査をされたい。
- 所管課は、佐渡市補助金等交付規則に基づき実績報告書を審査し補助金額を確定しなければならないが、収支決算書の根拠資料である領収書等を提出させることなく協議会から市に提出された実績報告書の添付書類の収支決算書及び竣工写真により補助金額を確定し交付していた。早急に協議会に資料を提出させ、補助金額が適正であったか再度審査されたい。
3 養殖担い手対策事業
協議会は、養殖施設整備事業で整備した養殖生けすに係る労務費を補助対象として申請すべきところ、生けす設置に係るアンカーロープの製作及びフロートの取り付け等を含めて補助対象として申請を行っていた。
所管課は、補助対象となる労務費を、勤務報告書の作業内容を確認したうえで給与支払明細を審査し補助金額を確定すべきところ、勤務報告書と給与支払明細の不一致や給与支払明細の積算誤り、また、支払根拠となる資料が不足していたなどの不備があったにもかかわらず、実績報告書に記載されたままの金額を補助対象とし交付していた。補助対象経費の精査をされたい。
4 種苗生産用施設改修整備事業
- 当該事業で整備した井戸水冷却機が使用されなくなったため、平成27年8月27日に協議会に対して補助金返還請求をしているが、未だ納付されていない。早期納付を促すよう努められたい。
- 上記1.の補助金返還請求額は、井戸水冷却機の残存価額を基に算定しているが、償却計算の基準日を実際に事業を中止した平成25年9月30日ではなく、補助金返還の納付期限である平成27年9月11日としていることに合理的理由がない。
- 市は、協議会に対しセンターの使用を許可する条件として、「使用期間が満了したときは、直ちに使用財産を現状に回復して返還すること」としているが、平成26年3月31日をもって使用期間が満了したにもかかわらず、協議会の資産である井戸水冷却機が使用されないままセンターに放置されている。使用許可条件を基に適切な指導をされたい。
5 その他銀鮭養殖に関して市が行った事業
- センターでの養殖事業は、平成25年1月8日に銀鮭発眼卵を搬入したが成魚には至らず中止された。その後もセンターは有効活用されておらず、市が多額な予算でセンターを修繕し、協議会に無償で使用させたことに妥当性があったのか疑問である。
- 市は、平成25年4月に水産振興推進負担金として協議会に1,900,000円を支出しているが、協議会の構成員になっておらず負担金を支出する理由がなく不適当である。
なお、この負担金は、平成24年度の当初予算に計上されておらず、他の予算から流用し支出されていたため、所管課に支出理由を確認したところ、当初、副市長と協議会の会長との間で事業実施に当たり臨時職員(水産指導)として2か年の雇用約束をしていたが、議会からの指摘があり1年間で雇用を解除したことから、解除された1か年分の臨時職員賃金相当額として支払ったものであるとの回答であった。
監査委員の意見
当該事業は、5か年計画に掲げた年次目標を達成できないまま平成25年度に中止となり、事業遂行のための補助金や関連支援等に多額の公金を支出したがその効果はほとんど現れてない。補助金の目的については要綱により明らかにされているが、公益上真に必要な事業だったのか大いに疑問を持つところである。
特に、当該事業を遂行するにあたり、高補助率の要綱を新たに整備するとともに補助対象者の公募も行わず選定したこと、水産振興推進負担金と称し根拠がない負担金を補助事業者に支出したことは、モデル事業とはいえ公共性・公平性に欠けており極めて遺憾である。
補助金は公益上必要がある場合に交付するものであり、適正かつ公正な執行に努めなければならない。これまでも他の補助事業において補助金返還を求めた事例が多く見受けられたが、今回の監査においても補助金の交付手続きや実績報告書等の検査が十分行われないなど、不適正な補助金交付事務が見受けられた。
市は、このほど個別外部監査結果により具体的な提言を受け、今年度末までに指摘された問題点に対する措置及び適正な補助金交付事務のルールづくりに向けた考え方を整理するとしていることから、早期にこれらを整理し実行することで補助金交付事務の適正化に努められたい。